日本たべもの総覧

日本たべもの総覧(12)

茄子の鴫焼【なすのしぎやき】

なすは関西では「なすび」、関東では「なす」と呼ぶが、漬ける、煮る、焼く、揚げるなど、どの料理法でも美味で夏から秋にかけての野菜のうち代表的なものである。

あまりにもてはやされるので「秋茄子は嫁に食わすな」という俚諺(りげん)がある。これを「体を冷やすから食べない方がよい」という好意的な意味より、姑の意地悪な根性と介する向きが多く、また種(=子だね)がないのを忌むからともいう。しかし実際には美味しいので食べ過ぎると胃腸を害し、特に女子は子宮を損なうためである。

なすの料理法のうち、昔から有名なのは「鴫焼き」で、西行の和歌をもじった狂歌に「心なき身にもあわれは知られけり鴫焼なすの秋の夕暮れ」がある。これは縦2つ割りするのと横に輪切りにする場合とがあるが、いずれも串に刺し胡麻油をさっと刷いて焦がさないように焼き、さらに練り味噌を塗って炙った後串を抜いて器に盛り、粉山椒を振り掛けて食する。輪切りにして油で炒め練り味噌をからませたものは「なべ鴫焼」と称する。

獣肉【じゅうにく】

日本では江戸時代まで、獣肉を食べる習慣がなかったように思われがちであるが、決してそんなことはなく古代には良く食べていた。しかし仏教伝来後の675年、天武天皇が勅命によって殺生を禁じたため、一般に獣肉を食べなくなった。魚肉が豊富である上、獣が少なかったので、その後この食習慣が固定化したものと思われる。しかしイノシシやシカ、ウサギなど比較的数の多い獣の肉を食べることにはさして抵抗も感じなかったらしい。とはいえ現在のように常食するようになったのは明治時代になってからのことである。

鯨肉【くじらにく】

「くじら」がほ乳類に属する動物であることは。今では子供でも知っているが、江戸時代までは「勇漁」(いさな)と呼ばれて魚類として扱われていた。

したがって獣肉を食べ慣れない時代でもくじら漁は盛んに行われ、肥前、長門、土佐、紀州などが主産地として知られ、主として関西で食膳に供された。明治以降、特に大阪で珍重され、牛肉や豚肉の代用品として迎えられたのが実情であった。ソーセージやベーコン風の加工品のほか、すきやき、カツレツ、ステーキ、生姜焼き、天ぷら(竜田揚げ)、刺身(尾の身)など、さまざまな料理法がある。「コショウ」を用いれば、食べ慣れない人でも結構喜んで食べる。

しかし現在はくじら保護の国際世論が高まり、1986年から反捕鯨国を主体とする国際捕鯨委員会によって沿岸捕鯨も含めて商業捕鯨が禁止されており、捕鯨国の日本としては南氷洋のミンククジラを調査捕鯨するだけとなっている。

牛肉【ぎゅうにく】

牛肉

江戸時代まで日本人は、牛肉を食べる機会は絶えてなかったが、戦国時代に南蛮船が渡来すると、ポルトガルの宣教師が日本人の信者にすすめ、彼らもまたその美味を知って信者以外にも振る舞ったという。このため牛肉食が一時盛んになったが、キリスト教の禁止と同時に廃れてしまった。牛肉食が再開されたのは明治になってからで、その様子は文学作品などに描かれている。料理法としては、西洋から伝えられたビーフステーキやシチューなどのほか、日本独特のすきやきがある。関西ですきやき、東京では牛鍋と称した。

参考資料「日本たべもの百科」新人物往来社刊

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