日本たべもの総覧

日本たべもの総覧(13)

鋤焼【すきやき】

すきやき

すき焼きの名は多く関西で使われ、東京では明治初年からもっぱら牛鍋と称していた。関東ですき焼きが普及したのは関東大震災後で、関西料理が東京に進出してからのことである。もともと鶏肉などを耕作用のスキやクワを用いて戸外で焼いて食べる方法があったが、明治になって急に獣肉食が盛んになっても、地方ではこれを嫌って、普段用いる鍋類を使わなかったので、納屋や屋外でスキやクワを用いて食べたという。その後野菜などを入れて焼くより煮る方に変わったが、すきやきの名は残った。もっとも一説によると、肉をすき身にして焼くからだともいう。いずれにせよ、長崎で発達した卓袱料理(しっぽくりょうり)の影響を受けたもので、日本独特であり、外国人も舌つづみを打つ。

脂を溶かした鉄鍋に薄切りの牛肉を入れて焼き、関東では割り下で味を付け、葱、焼き豆腐、しらたき、ザク(野菜)などを加えて、煮ながら食べる鍋料理の一つである。生卵をからめて食べることは関西から始まって、関東でも行われるようになった。割り下は酒・味醂・醤油を1・1・2の割合で混ぜ、水で2倍に薄めたものを標準にして、好みで変えればよく、さらに砂糖も用いる。煮詰まったら薄割りで薄める。なお牛肉ばかりでなく魚肉を用いる場合も「魚すき」などと呼んでいる。うどんを使う「うどんすき鍋」もある。

豚肉【ぶたにく】

豚肉

豚はイノシシが家畜として飼育されるようになってから牙を失い、鼻も曲がって現在のような姿になったものといわれている。最も古くから豚を大量に用いたのは中国で、頭から尻尾に至るまで、ことごとく食べられるように、細かい料理法が発達した。日本では長い間豚肉を食べる風習がなく、開港地の長崎でのみ口にすることができた。しかし幕末になると江戸=長崎間の行き来が盛んになり、次第に豚肉の味を覚える者が多くなったという。明治になってから広く飼育されるようになったが、豚は何でも食べるので脂肪層が厚く、体温が高いのでどのような環境にも耐えられる。不潔なまま放置しておくことが珍しくなかったが、本来は清潔好きな動物であるため、飼育法も次第に改善されている。豚肉もほぼ牛肉と同様な料理法が用いられるが、ハム、ベーコン、ソーセージなど、加工品は淡紅色で美しい。注意すべきは豚肉の脂肪は人間の口中の温度で溶けるが、牛肉の場合はもっと高い温度でないと溶けないことである。したがって牛肉はすき焼きやステーキなどに適し、豚肉はハムなどの冷製用に向くわけである。日本は豚肉の料理については歴史は浅いが、独特の料理法としてはトンカツおよび味噌漬けがあってともに美味である。

馬肉【ばにく】

馬肉は俗に「桜肉」または「蹴飛ばし」といわれる。もともと日本では食用のために馬を飼ったことはなく、廃馬を屠殺して食べたので日陰者扱いとなり、自然に隠語で呼ばれることになったのであろう。したがって値段もつねに牛肉より安い。また一種独特の臭いがする。臭い消しのために生姜の絞り汁を加えるのが常識になっている。

脂肪分は少ないが蛋白質に富み、体が温まるので冷え性の人によいといわれる。一般にはあまり知られていないが、加工した肉製品には馬肉が混用されていることが多い。もっとも近年農耕用や役畜として馬を飼うことがめっきり少なくなったため、馬肉の出回る量も激減しており、以前はあった馬肉専門の料理店(サクラ屋または蹴飛ばし屋)もほとんど姿を消している。

参考資料「日本たべもの百科」新人物往来社刊

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